渇望の砂漠。ドルワーム。過剰なまでの太陽の恵み。その寵愛を受け止めきれるのは僅かな命達だけだ。
そんな砂漠で今日もサボテンは思う。
時折、目の前を通り過ぎる冒険者達のように、遠くへ行きたい、と。
冒険者達の話では、遠く緑豊かなメギストリスと呼ばれる国には、ジンメンジュと呼ばれる動き回る木があるらしい。
大人になれば、動き回れるようになるのかもしれない。その証拠に、周りには仲間は少ない。
きっとみんな大人になって遠くへ旅立っているのだろう。
そう考えたサボテンは、自分をここまで成長させてくれた太陽に感謝の気持ちを込め、1日1万回の光合成を自分に課し、さらなる成長のための努力を始めた。
祈り、〔光〕合成、排出〔酸素〕。。
寝るとき以外の全ての時間を費やした。
十数年が過ぎたある朝。目が覚めたサボテンに異変が起きる。
いつもそこにあるはずの黄色い砂漠は無く、視界は青で満たされた。
転んだのだ。
四肢の感覚を確かめながら慎重に立ち上がる。
ゆっくりとバランスをとりながら、足を出す。
歩ける!
しかも、これだけエネルギーや水分を蓄えられるメタボ体なら、遠くへ行けるはずだ!

世界を見て回りたい。
冒険者たちと同じ景色を見てみたい。
湧き上がる感情を抑えきれないサボテンは、足早にドルワームに向かった。
だが、サボテンは知らない。
自分が、かつて見たウェディと呼ばれるイケメン種族ではなく、カビ団子 ドワ男であることを。